[貴方のために]

おやつ時。
「失礼します。・・・日番谷くんいますか?」

雛森が十番隊に足を運んだ。
おやつはここで食べるのが雛森の日課になっている。
本当は日番谷に会いたいだけなのだが―

「あら雛森。隊長なら出てるわよ。・・・まぁもう少ししたら帰ってくると思うけど」

だが、日番谷はいないようで、代わりに彼の副官である松本が返答する。

「そうですか・・・」

雛森はしゅん・・・となる。

「・・・待ってる?」

そんな雛森の様子を見た松本は言う。

「いいんですか?」
「勿論。私も今暇だし」
「じゃあ、お言葉に甘えて」

そう言って、雛森は襖を閉める。
入ったは良いが、どうしたら良いか分からずその場に立っていた。

「立ってないで座りなさいよ。あんたを立たしてたら、私が怒られちゃうわよ」

苦笑しながら言う。

「えっ!なんかここに日番谷くんがいないのが久し振りで・・・」

雛森は控えめに言う。

「そうね・・・あんたが来る時は大抵いるわね、あの人」
「そうですね・・・」

お茶を啜りながら言う。
雛森にとって日番谷がいないことはとても寂しいことだ。
それは彼を好きだからという単純な理由だが。

「・・・雛森ってさ」

不意に松本が口を開く。

「なんですか?」
「・・・隊長のこと、死神にしたくなかったんじゃない?」
「え・・・?」

意外な質問に、雛森は驚く。

「・・・言わなかったっけ?昔、隊長に会ったことがあるって・・・」
「・・・あぁ・・・聞いたことあります。日番谷くんの力が強かったから、行けって言ったんでしたよね。このままじゃお婆ちゃんを傷付けるだけだからって」
「そうよ。・・・それで隊長とこうやって上司と部下の関係になって、それであんたが隊長の幼馴染って分かって。あんたのことを知って、そう思うようになったのよねぇ・・・」

凄く気になってたの、と言いながら苦笑する。
雛森は少し考え込む。

「・・・そうですね・・・なってほしくなかったです」
「なんで?」
「傷付くから・・・・」
「・・・そうね」
「あの人―日番谷くんには体験してほしくないってずっと思ってて・・・。でも、日番谷くんの力が私より強いのは知ってました・・・」
「・・・確かに、あの頃の隊長の霊圧、小さい子にしては異常だったわ・・・」

思い出すように松本は言う。
松本の言葉に雛森は頷く。

「・・・それが傷つける原因になるってことも・・・でも、死神になったらもっと傷付くと思ったから・・・」
「・・・確かにそうかもしれないわね」
「はい」
「でも、力の強さで誰かを傷付けた時も同じだと思うわ。自分の力をなんだと思うのは」

雛森は松本を見る。
とても真っ直ぐな目をしていた。

「乱菊さん・・・」
「だから、隊長をこの世界に引き込んだことは後悔しないわ」

にこりと雛森に微笑む。

「・・・そうですね・・・」

雛森も笑う。


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